60点のマネジメント④ ~業務を標準化する【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~Vol.29】
本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.28です。(Vol.1から読み始める場合はこちら)
60点のマネジメント④~業務を標準化する

お互いに気をつけましょう
・同じサービスでもヘルパーによって
内容に濃淡があるというクレームがあった。
・夜勤職員によって朝食準備までしている者と
そうでない者がまちまちである。
・事故報告書の記載事項が不十分な職員がいる。
いずれも現場でよく耳にする問題である。何が原因なのだろうか。職員同士のコミュニケーションが不足していたのではないか。確かにそれもあるだろう。ただ、原因はそれだけではないはずだ。
こういった問題が発生したとき、「お互いに気をつけましょう」で話を終わらせていないだろうか。しばらく経ったらまた同じ問題が起き、そしてまた「お互いに気をつけましょう」で済ませる。そんなことが繰り返されてはいないだろうか。
例のような職場の不具合は、おそらく業務内容が明確ではないから発生している可能性が高い。サービス計画書に基づく手順書がない、もしくはあっても周知されていなければ、ヘルパーによってサービス内容に濃淡がでることもあるだろう。朝食準備の有無についても、事故報告書の作成についても同じである。定めた書面がなかったり、活用されていなかったりすれば、こういうことは十分に起こり得る。
この種の不具合が起きると、必ずといっていいほど、サービスの薄いヘルパーや、朝食準備をしていない夜勤職員や、事故報告書が未熟な職員の方が責められることになる。だが、必ずしも彼ら彼女らに非があるとは限らないのである。
業務標準化の有効性
人材育成でも同じような不具合が起きている。教育の問題は、教える側・教えられる側の性格や能力のせいにされることが多いが、これも教える内容や教育担当が明確になっていないことに原因がある場合が少なくない。よくある、教わる先輩によっていうことが違うという問題などは、まさにこれが原因だ。
業務内容を明確にするためには、業務の標準化が有効である。この「標準」は、皆さんよくご存知の「標準予防策(スタンダード・プリコーション)」の「標準」だ。完璧な方法ではないかもしれないが、その有効性を疑う人はいないだろう。
感染予防は、たとえひとりでも定められた対策を怠れば効果が薄れてしまう。だから、全職員が手指消毒の手順を統一してウイルスや細菌の侵入を防ぎ、利用者の中に感染者が発生した際にはゾーニングやPPE(個人防護具)の脱着ルールを徹底する。
日常業務も同様に、たとえひとりでも最低限行うべきケア業務の手順や新人教育の必須事項を蔑ろにすれば、その事業所全体のケアの質は保てなくなる。誰もが同じケアの基本を踏襲し、誰もが同じ新人教育を行うべきだ。

画一的なケアや教育によって個別性といういちばん大事なものが損なわれるのではないかという意見があるが、標準化と個別性の尊重は相反するものではなく、両立可能だ。標準化とは、あくまでも個別性の基礎を成す部分の統一化であり、個々人に合わせて対応することを否定するものではないからだ。

「標準」は職員ごとに異なる
最初に、全職員が標準的に行う業務とその分担を決めておけば、職員間の行き違いや勘違い、人的対立やミスを減らすことができる。
先ほどの例でいうと、訪問時に行うべきことを簡単な手順書にし、全ヘルパーがその通りにすることを徹底すれば、サービスの濃淡は緩和される。 夜勤職員の朝食準備の件は、夜勤の業務範囲を一覧表にし、その中に朝食準備は含まれるのか含まれないのかを決めればいい。
事故報告書の不備については、運営チームで事故報告書のフォーマットに基づいて「正しい記入例」を作成し、それを周知する。それでも不備がある職員には主任層が個別に指導する。
「標準(常識)」の中身は、人によって異なる。ケアの密度の低いヘルパー全員が手を抜いているのではなく、中にはそれくらいで問題ないと思っている人もいるだろう。夜勤なら朝食準備までするのが当たり前の人もいれば、そうでない人もいる。不備の多い事故報告書についても、実は、これくらい書いておけばいいと本気で思っている可能性がある。
だが、こういった個別の「標準(常識)」をいちいち職場ですり合わせたりはしない。だから多くの場合、手数が足りない人が悪くいわれることになる。
もしかしたら、業務を標準化しないまま、属人的に手数が多い人とそうでない人が混在することが、無用な人的対立の原因になっているのかもしれない。業務が標準化されていないことによって事業所内で起きている問題は、案外多いような気がする。

(Vol.30へ続く / 2026年3月初旬公開予定)
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員
1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。