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第3章 介護現場マネジメントの方法⑫【マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~】

公開日:2025年9月1日

本記事は、人材開発部によるマネジメント連載企画「マネジメントできないマネージャーたち ~介護経営の陥穽(おとしあな)~」のVol.24です。(Vol.1から読み始める場合はこちら

60点のリーダーシップ⑥ ~任せても、任せ過ぎない

「自己完結型組織」と「邪魔」

「仕事はちゃんとしますので、とにかく現場の邪魔をしないでください」。これが介護現場の本音なのではないだろうか。筆者もかつて現場のマネジメントをしているときに、何度かこれに近いことをいわれた覚えがある。正直なところ当時はかなりカチンときたものだが、今ならこの言葉の意味を冷静に受け止めることができる。まさにその通りだからだ。

本来的に介護現場というものは自己完結型組織だ。ケアプランに基づいたサービスの計画と手順があり、それに沿って日常的な業務が行われている。予定通りの仕事を予定通りに行うのが基本で、予定外のことも度々起きるが、それは現場内のやり繰りで調整される。いちいち現場外に指示を仰ぐこともなければ、現場外に調整や応援を求めることもほとんどない。これはサービス種別を問わず、すべてでそうなっている。ある時は職員個人のその場の判断で、ある時はチーム内やフロア単位の判断で、常に臨機応変な変更やリカバリーが行われる。確かに、とやかくいわれなくとも、仕事はちゃんとできている。

一方、彼ら彼女らは、この閉じた組織が変わることを「邪魔」と感じる。シフトへの介入。人事異動。育成に手間がかかる職員の入社。ICT機器の導入。新加算取得のための帳票作成。医療度の高い利用者や、従来とは異なる対応が必要な利用者の受け入れなどがこれにあたる。

尊重しつつ時には説得する

現場の好きにさせて邪魔をしない方がいい、といっているのではない。介護現場特有のこの傾向をよく理解した上でマネジメントする必要がある、ということなのだ。なぜなら、自己完結型組織の尊重と、現場が邪魔と感じる事柄の適切な取り扱いが、職員のやる気を大きく左右するからである。やる気が仕事の成果に多大な影響を与える以上、この点への配慮は外せない。

まず、自己完結型組織であること自体は、尊重するほかない。在宅であろうと施設であろうと、日々変化する利用者の状態に合わせてケアを行うという業務の性格上、管理者としては現場を信じて仕事を任せてしまうしかない。

管理者がすべきなのは、現場の職員たちが各利用者にどのようなケアを行いたいのか、どのような職場を作りたいのか、彼ら彼女ら自身に考えさせ、決めさせ、その通り実行するよう促すことだ。その内容が、法人理念や事業所の目標から大きくずれていたり、実態からかけ離れていたりする場合は修正を求めるが、それ以外はできるだけ現場の意向を優先して、進捗管理の中で見守る。

逆に現場が邪魔だと感じる事柄については、時には話し合いと説得が必要となる。強引に押しつけるのはよくないが、引き下がってばかりではいつまで経っても状況の改善は望めない。どうしても実現すべき案件にだけは食い下がる。ここが管理者の腕の見せ所だ。

いうべきことはいうしかない

自己完結型組織が保守的になりやすいのは、ある程度は仕方ない。だが、その状態を長く放置していると、慣れからくる業務怠慢やサービス劣化、モラル低下等のリスクが高まる。ふと気がつけば、介護現場だけが世の中の変化から取り残されていた、ということも十分起こり得る。

労務管理上の懸念事項を予防するためには、人事異動や新規採用は欠かせない。ときにはシフトへの適切な介入を行う必要も出てくる。すべての現場がそうではないが、何の牽制もない状態が長く続くと、自分たちの都合だけで仕事をまわしたり、手を抜いたりする者が現れることもある。また、法人や管理者が、ICT機器の導入や新たな加算の取得が必要だと判断したのなら、現場を説得して取り組みを進めていかなければならないこともある。

こういった理由を丁寧に説明し、業務改善への協力を求めることは、管理者にしかできない仕事だ。自己完結型組織を許容することで現場のやる気を維持しながらも、その一方でいうべきことはいわなければならない。だからこそ、管理者は「中四病」になってはいけないのだ。ノスタルジーに負けてサービスに入り過ぎれば、現場が自立して「ちゃんと仕事をすること」の妨げになる。また、アガリ意識による放任は、「邪魔しないでください」という現場の意見の丸呑みとなり、必要な説得の放棄につながりかねない。仕事は任せるが、任せ過ぎない。この匙加減が重要なのである。

Vol.25へ続く
※次回更新は2025年10月初旬の予定です。

Writer
柴垣竹生
柴垣 竹生 / Takeo Shibagaki
株式会社エクセレントケアシステム 執行役員 / 人材開発部 部長
兵庫県立大学大学院経営研究科(MBA)講師、公益財団法人介護労働安定センター 雇用管理・人材育成コンサルタント、大阪市モデル事業「介護の職場担い手創出事業」アドバイザー、日本介護経営学会会員

1966年大阪府生まれ。大手生命保険会社勤務を経て、1999年に介護業界に転じ、上場企業および社会福祉法人において数々のマネジメント職を歴任。2019 年より現職。マネジメントに関する講演実績多数。近著に『老いに優れる』(社会保険研究所)、『介護現場をイキイキさせるマネジメント術』(日本ヘルスケアテクノ)がある。